釧路地方裁判所 昭和27年(行)5号 判決
原告 阿部今朝次郎
被告 太田村農業委員会
一、主 文
被告が北海道厚岸郡太田村字片無去三番地四百五十七町八段八畝八歩の土地につき定めた買収計画(昭和二十四年十一月二十六日附太田村農地委員会長門屋盛隆より原告宛の「牧野(含追給地)買収計画樹立について」と題する書面にその内容の記されたもの)の中同所同番地二股の川以東の四百十七町八段八畝八歩の土地に関する部分は無効であることを確認する。
被告が北海道厚岸郡太田村字片無去三番地二股の川以東の四百十七町八段八畝八歩の地上立木につき定めた買収計画(昭和二十六年六月一日附太田村農地委員会長門屋盛隆より原告宛の「牧野買収に伴う立木算定について」と題する書面にその内容の記されたもの)は無効であることを確認する。
原告の被告に対する其の余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用はこれを五分しその一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
二、事 実
第一、請求の趣旨
原告訴訟代理人は「被告が北海道厚岸郡太田村字片無去三番地四百五十七町八段八畝八歩の土地につき定めた買収計画(昭和二十四年十一月二十六日附太田村農地委員会長門屋盛隆より原告宛の『牧野(含追給地)買収計画樹立について』と題する書面にその内容の記されたもの。以下第一買収計画と略称する。)は無効であることを確認する。被告が北海道厚岸郡太田村字片無去三番地二股の川以東の四百十七町八段八畝八歩の地上立木につき定めた買収計画(昭和二十六年六月一日附太田村農地委員会長門屋盛隆より原告宛の『牧野買収計画に伴う立木算定について』と題する書面にその内容の記載されたもの。以下第二買収計画と略称する。)は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。
第二、請求の原因についての主張
一、第一及び第二買収計画の内容とその樹立の経過
原告は約三十年前より北海道厚岸郡太田村字片無去三番地四百五十七町八段八畝八歩の土地を所有し、この土地を利用して造材薪炭製造牧畜等を業としていたところ被告(昭和二十六年法律第八十八号農業委員会施行前は太田村農地委員会であるが、以下同農地委員会をさす時も単に被告と呼ぶ。)は右土地を牧野として自作農創設特別措置法(以下自創法と略記する。)第四十条の二により牧野として第一買収計画を立てその面積四百五十七町八段八畝八歩対価七万九千百二十一円六十六銭買収時期昭和二十四年十二月二日と定めて昭和二十四年十二月頃原告に通知して来たので原告は右第一買収計画に対し異議を申立てたが被告は昭和二十五年二月二十五日これを棄却し、原告が更に北海道農地委員会に訴願したところ同委員会は同年七月二十七日頃原告の訴願は北海道厚岸郡太田村字片無去三番地二股の川以西の四十町歩の土地について容認し、右部分についての買収計画を取消し他の同所同番地四百十七町八段八畝八歩の土地については棄却する旨の裁決を下し之を買収することになつたので被告が先に樹立した第一買収計画の対象土地の面積は変更(縮小)された。被告は右訴願が棄却になつた北海道厚岸郡太田村字片無去三番地二股の川以東の四百十七町八段八畝八歩の土地上の立木につき昭和二十六年五月三十一日第二買収計画を定めた。即ち同年六月一日附太田村農地委員会長門屋盛隆より原告宛「牧野買収に伴う立木算定について」と題する文書を原告に送付し、その土地の買収牧野面積四百十七町八段八畝八歩対価七万二千二百九円六十六銭その地上立木は一段当り十石とみて一石の単価十五円合計六十二万六千八百二十円と定め右立木買収計画を定めたから右立木買収に異議ある時は本書受領の日より二十日以内に異議申立をせられたい旨を通知してきた。そこで原告は同年六月十六日異議を申立てたところ被告は同日これを棄却した。そしてその後間もなく北海道知事は原告に対し北海道厚岸郡太田村字片無去三番地二股の川以東の四百十七町八段八畝八歩の土地及びその地上立木は国に買収になつた旨の買収令書を交付した。
二、第一及び第二買収計画に共通の無効原因
(1) 被告は第一買収計画においてはその対象土地を自創法第四十条の二の「牧野」として同法第四十条の四により買収計画を定め、第二買収計画においては前記各法条により「牧野」の地上立木につき買収計画を立てているが右第一及び第二買収計画の基礎たる土地は原告が三十年来の生業である薪炭製造製材業に要する立木の育成を主目的としてきた土地であり地上立木の樹冠疎密度は三十パーセントを遙かに超え地上立木の材積も二股の川以東の四百十七町八段八畝八歩の部分につき九万九千四百二石(胸高直径三寸以上のもの)に達するから「牧野」ではなくて明らかに「山林」である。従つて自創法の前記法条によつては買収計画の対象たり得ない「山林」であること明らかな土地を「牧野」として買収計画を立てたことは内容不能の行政行為をしたことになり買収計画は無効である。
(2) 仮に右土地が牧野であるとしても該土地は原告が実弟阿部喜之助をして管理させておいたものであり、如何なる意味においても自創法第二条第三項後段の小作牧野ではない。被告は明白に小作牧野ではないこの土地を小作牧野として第一及び第二買収計画を樹立したのであるから右買収計画は内容不能の無効の行政行為である。
三、第二買収計画についての無効原因
(1) 被告は昭和二十六年六月一日頃立木につき前顕の如き内容の第二買収計画を原告に通知したが単に右通知しただけで公告縦覧等の手続を履践しないからかかる買収計画は法律上何等の効力もないものである。
(2) 第二買収計画は自創法第四十条の四第三項の規定に違背し買収時期である昭和二十六年五月三十一日当時の時価を無視して昭和二十四年十二月二日現在の時価により買収対価を算定しているがこれは買収物件の対価算定に関する法定の有効要件に違背するから右買収計画は無効に帰する。
第三、被告の答弁事実に対する原告の主張
(1) 原告の主張に反する被告の主張事実はすべて否認する。
(2) 被告は第一買収計画において買収するべき牧野の所在、地番、面積、対価及び買収時期等を定めてこれを公告し縦覧に供したが、その地上立木の樹種、数量及び所在場所及び対価については何らの定めをなさず、たゞ単に立木の算定価額は追つて通知する旨を原告に通知したに止まるにも拘らず右立木は右土地と共に一体をなし当然第一買収計画に包含せられているものであると主張するけれども、これは自創法第四十条の四が牧野買収計画中に立木や家屋の買収条件となる事項を規定しなければならないと要求していることに違背している。
(3) 第一買収計画について原告が北海道農地委員会に訴願し同委員会が昭和二十五年七月二十七日頃右訴願を一部容認し一部棄却したから右第一買収計画の内容は一部変更となり従つて買収計画もその有効要件の一部を変更したから被告はその変更された内容を以て改めて別個の計画を立て公告縦覧する等の手続をしなければならないのに被告はその手続をしない。かかる場合に第一買収計画は条件付に有効であり、別個の計画、公告縦覧等の手続は不要である旨の被告の主張は自創法の精神に反する。
第四、原告の立証<省略>
第五、請求の趣旨に対する被告の答弁
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第六、請求原因に対する被告の答弁
原告主張の請求原因事実中
一、の事実については原告が製材薪炭製造牧畜等を業としているとの点は不知又立木算定価額の通知の事実は認めるが右は後述の如く第一買収計画と別個独立の第二買収計画を樹立したものではない、其の余の原告主張事実は之を認める。
二、(1)の主張事実は否認する。右土地は主として放牧の用に供していたから牧野である。
(2)の主張事実は否認する。原告の実弟阿部喜之助は本件牧野を使用貸借上の権利に基いて養畜の業務に供していたものである。
三、(1)の主張事実は否認する。原告主張の書面に記されている内容は別個の買収計画ではなくて単に第一買収計画の対価の変更にすぎない。対価の変更については昭和二十六年六月一日に公告し縦覧に供した。
(2)の主張事実は否認する。立木は土地と共に昭和二十四年十二月二日の第一買収計画当時に買収したのであるから右買収当時の時価により算定するのが適法である。
四、(1)自創法第四十条の四にいう立木とは立木法の立木及び明認行為を施されてある立木を意味するところ第一買収計画の対象となつた地上の立木は右のいづれにも属しないから土地と一体をなして第一買収計画の対象となつた土地の中に当然包含されていたものであり、その素地と別個独立の買収手続を行う必要はない。
(2)第一買収計画は条件附で有効である。即ち訴願裁決の結果買収の目的物に変更があつても原買収計画は当然無効となるのではなく事後の手続を補足すれば有効である。
第七、被告の立証<省略>
三、理 由
原告は自己が北海道厚岸郡太田村字片無去三番地四百五十七町八段八畝八歩の土地を約三十年前より所有していたところ被告は右土地を牧野として第一買収計画を立てその面積四百五十七町八段八畝八歩対価七万九千百二十一円六十六銭買収時期昭和二十四年十二月二日と定めたので原告はこれに対し異議を申立てたところ被告はこれを昭和二十五年二月二十五日棄却し、更に原告は北海道農地委員会に訴願したが同委員会は同年七月二十七日附裁決書を以て原告の訴願は第一買収計画の対象土地中二股の川以西の四十町歩の土地について容認し他は棄却する旨の裁決を下し被告の先に定立した第一買収計画の対象牧野の面積を変更(縮小)したと主張している。
要するに原告は第一買収計画が訴願裁決によつて一部取消し変更したことを主張しているのである。しかるに原告は本訴の請求の趣旨として第一買収計画の右一部変更(取消)した部分をも含む北海道厚岸郡太田村字片無去三番地四百五十七町八段八畝八歩の土地全体についての買収計画の無効確認を求めているから原告の請求は右訴願の一部容認によつて取消され失効した二股の川以西の四十町歩の土地についてはその無効確認を求める法律上の利益のないものであつてこの部分は原告の主張それ自体において既に失当であると言わなければならない。
そこで爾後第一買収計画については該買収計画中無効確認を求める利益のないと判断される二股の川以西の四十町歩の部分を除いた北海道厚岸郡太田村字片無去三番地二股の川以東の四百十七町八段八畝八歩の土地に関する部分が無効であるか否か及びその地上の立木についての第二買収計画が無効であるかどうかを判断する。
被告が原告所有の土地に第一買収計画を樹立し原告が右買収計画を不服として争い、北海道農地委員会に訴願しその結果訴願が一部容認一部棄却となり第一買収計画の対象土地の面積が縮小されたことは前顕の通りであること及びその後被告が昭和二十六年五月三十一日右地上の立木につき同年六月一日附太田村農地委員会長門屋盛隆より原告宛「牧野買収に伴う立木算定について」と題する書面を原告に送付し、その土地の買収牧野面積四百十七町八段八畝八歩対価七万二千二百九円六十六銭その地上立木は一段当り十石と見て一石の単価十五円立木価格合計六十二万六千八百二十円と定めたから右立木買収に異議ある時は本書受領の日より二十日以内に異議申立をせられたい旨通知してきたこと、そこで原告は同年六月十六日異議を申立てたが被告は即日これを棄却し、その頃北海道知事は原告に買収令書を交付したことはいづれも当事者間に争がない。
被告は昭和二十六年六月一日附の「牧野買収に伴う立木算定について」と題する書面の内容は原告主張の如く別個の買収計画を樹立したものではなく第一買収計画に当然包含せられている立木の対価を定めたのに過ぎないと主張しているが、右書面に原告所有の北海道厚岸郡太田村字片無去三番地四百十七町八段八畝八歩の地上立木は段当り十石単価一石当り十五円立木対価六十二万六千八百二十円と被告において定められた旨の記載があり且つこの買収に異議ある時は右書面受領の日より二十日間内に異議の申立をせられたいと附記されてあることは当事者間に争がないから、このように自創法第四十条の四が牧野買収計画の内容として定めることを要求している事項を具体的に記載した書面は他に反証なき限り社会観念上第一買収計画と別個に右牧野上の立木につき第二買収計画が樹立された事実を推知するに十分であり右書面は右計画の内容を通知したと認めるのが至当である。
次に原告は本件の第一及び第二買収計画はいづれも明らかに「牧野」ではなくて「山林」である土地並に右地上の立木を「牧野」並に牧野上の立木として定めた買収計画であるから無効であると主張し被告はこれを争うので按ずるに成立に争のない甲第五号証及び証人阿部喜之助鑑定証人森敏郎の各証言及び原告本人訊問の結果並びに鑑定の結果を総合すると、原告は大正十年以来現在迄木材及び製炭を業として生計をたて、昭和四年北海道厚岸郡太田村字片無去三番地の本件係争地を含む六百数十町余の土地を買受け該土地に立木を育成して自己の製炭木材業に供することとし、先づ買受け当時の択伐跡地を皆伐して製炭し、その跡地の幼木を育成すると共に植林も加味しなお副業的に馬の放牧も加味して森林経営することとし実弟阿部喜之助をしてその掌に直接当らせていた事実、昭和二十三年に右土地の中本件係争地に隣接する約百七十五町歩が開拓適地として国家買収されたが昭和二十四年十二月の本件第一買収計画による買収当時には北海道厚岸郡太田村字片無去三番地二股の川以東の百十七町八段八畝八歩の土地の上の立木の樹冠疎密度は河畔の比較的疎密度の低い地域を加えても平均六十七パーセント以上であり右土地の一町歩当りの平均材積は約二百十四石程度であり釧路国支庁管内民有林平均蓄積が一町歩当り百七十七石であるのに対比して比較的優良な森材であり放牧を加味した森林経営をするのが経済上得策と見られるような林況にあつた事実が認められるから右のような使用状況及び林況にあつた北海道厚岸郡太田村字片無去三番地二股の川以東の四百十七町八段八畝八歩の本件係争地は昭和二十四年の第一買収計画当時にあつては明らかに「山林」であつたと認められ、その後木材を伐採することなく森林経営を続けていたのであるから昭和二十六年の第二買収計画当時においても右土地が「山林」であつたことは容易く認められ、かかる認定を覆すに足りる証拠はない。
して見れば明らかに山林と認められる土地を牧野として買収計画を樹立した第一買収計画中の二股の川以東の四百十七町八段八畝八歩の土地に関する部分及び右地上の立木の第二買収計画はいづれも明らかに牧野買収の対象となり得ないものを牧野として買収計画に定めた違法の点が認められるから爾余の争点の判断を俟つまでもなく右買収計画は何れも無効なものと云わなければならない。
仍つて以上検討したとおり原告の本訴請求中主張自体において失当な部分は之を排斥しその余の原告の本訴請求はいづれもこれを正当なものと認めて認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条本文を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 羽生田利朝 橋本金彌 柳沢千昭)